2016年8月28日号
「今週の談話」
感動的なオリンピックが終わり、少し秋の気配が感じられるようになりました。
秋になるとコンサート、ミュージカルと足を運ぶ機会が増えます。
ロシアピアニストの「コンスタンチン・シャムライ」さんの松山でのピアノコンサートは驚嘆すべきものでした。どのような有名な演奏家でも満足に弾けないと言われるベートーベンの難解なピアノ曲「ハンマークラヴィーア」を感情豊かに流麗に演奏し感動的でした。さすがに天才シャムライと言われるだけの力量の一端をみせてくれました。
福岡博多座でのミュージカル「エリザベート」はハプスブルグ帝国最後の皇后エリザベートの病んでいく精神を描いた物語です。井上芳雄さん扮する死神がつきまとうという大変重苦しいテーマのため、ドラマの展開が暗く私には理解しがたいミュージカルでした。会場を埋め尽くしていたのは熱狂的な井上芳雄ファンの方々で、少数派の私は劇場の片隅で言いようのない圧迫感を受け続けました。
松山のソリアーニという50席ほどの小さなホールで室内楽(「チェンバーミュージックコンサート」)を楽しみました。東京から招待された東京フィルハーモニー交響楽団のコンサートマスターの依田真宣(よだまさのぶ)さんのヴァイオリン演奏が出色でした。ブラームスのピアノ四重奏第1番(依田真宣、田原綾子、富岡廉太郎、須関裕子さん)は海の上に放たれた月光が小さな波から大きなうねりとなって輝き、最後には月に帰っていくかのような緻密にして壮大な演奏でした。スピーカーのない教会風の洒落た小さなホールの、目の前の生き生きとした演奏は大変スリリングで感銘深く、このホールでの演奏会がこれから楽しみになりました。

ブラームスのオクラ育てる四重奏
「雲ぷかり〜工藤惠さんの俳句集」
当代人気俳人の一人、工藤惠さんの俳句集「雲ぷかり」を読みました。
通常私は俳句集をぱらぱらとめくり、印象の残った俳句だけ反芻して読むのですが、この俳句集はそのようにして読んだあと、気になって一から最後まで丁寧に読み返しました。
この俳句集は子育てから、子離れ、自立、そしてその葛藤を描いたもので、俳句を辿れば一つの物語が完成して、ドラマ性に優れています。淡々と日常生活を口語体で平易な言葉を使って俳句を綴っています。読者はその日常生活に感情移入して自分の生活と重ね合わせながら、「うむうむ、そうだそうだ」と相槌を打ちながら読み進んで行きます。ところどころで、瑞々しい俳句が登場し、おやっと思わすところは中々の才人ぶりです。229句の中から選んだ私の愛すべき俳句です。
韮香る幸福ならばこの辺り
丸美屋のふるかけご飯春が行く
チョコボール空へ転がる立夏かな
さくらんぼ手とかつないでみませんか
子供さんの成長を詠んだ楽しく温かい俳句が続きます。
たんこぶにお詫びの電話春の霜
アスパラを並べて立てて反省会
伸び伸びと育っていく子供さんの陰で、親がおろおろしています。
親の手から子供が巣立っていく瞬間です。
こころのざわめきが聞こえてきます。
そんなこと聞く君はまだ白玉粉
いやなのよあなたのその枝豆なとこ
いつまでも親は子供の未熟さが気になります。いくつになっても。
小春日のたこ焼きほどのわだかまり
沸点の低い男と関東煮
旦那さんに対する不満を愚痴っています(多分)。
誰にもある平和な小さな悩みです。
冬銀河夢の欠片を生きる今
たましいの涙か牡蠣一粒啜る
薄氷や母をそろそろやめようか
ツナ缶を開けて春愁のようだわ
後悔はたとえば金魚産むように
耳飾り外して終わるハロウィーン
やっと子育てにめどが立ち、女性として自立するとき(!)が来ました。
これからの俳句がどのように変化していくか、読者として楽しみです。
そのほかに気になった俳句です。
ブロッコリーいい奴だけどもう会えない
ピーマンのようにじゃぶじゃぶと洗って
さくらんぼクリックすれば会える人
大夕焼きしむ脚立に腰かけて
青バナナ一肌ぬがれてもちょっと
ノラ猫に屋根ひとつずつ星涼し
夕顔が咲けばあなたを忘れるわ
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