2004年6月28日号
「今週の談話」
マンネリ化して鋭さを欠いていたNHK「プロジェクトX」に久しぶりの佳作が生まれました。「羽田新空港 魔のヘドロ地盤に挑め」は興奮と感動を与えてくれました。
増え続ける航空需要に対応するため、運輸省は羽田沖の埋立地に新空港を建設することと決めました。しかし、ここには強固な地盤は無く、ヘドロからなる軟弱な地盤が広がっていました。誰の目にも不可能と思われた空港建設。ここに信じられない技術を用いて、地盤を固めました。何とヘドロに紙を差しこみ、紙の繊維が水を吸い上げると言う、サイフォンの原理を応用した技術を使ったのです。10万本のペーパーを打ちこみ、この無数のペーパーが水を吸い上げ、こんこんと水が湧き上がりました。見事、水抜きに成功しました。
ピアノ線を埋め込んだ強固なコンクリートで、滑走路と航空機が待機するエプロンをこの水抜きで固くした地盤の上に作りました。しかし、ここで問題が発生しました。計算ではコンクリートなどの重みで、エプロンが10年間に4cm沈下することが判明したのです。これは大問題です。解決策は無いように思われました。このとき、前代未聞の技術が導入されました。沈下したコンクリートを油圧ジャッキで持ち上げると言うのです。1haの広さに280基のジャッキを取りつけ、30分で15cm見事に持ち上げることができました。持ち上げた後の隙間には、速乾強固な特殊セメントを流しこみ固めました。
不可能と思われた工事を完成させた執念とアイデアの数々には感動しました。技術立国日本の見事なプロジェクトを見せてもらいました。
感動覚めやらない次の日、ある製薬会社の人が大阪から来ました。最近使いはじめた予防接種の特殊な注射器の調子がおかしいので、この会社に問い合わせていたら、その説明のため担当者がやってきたのです。各地でクレームが相次いでいるため、このクレームをかわす担当者を作り、説明のためこの人を派遣しているようです。苦情処理の専門家まで用意しているとはビックリしました。それだけ、深刻な事態になっているのです。
この特殊な注射器には、薬液の内容を均一化するためエアーが予め封入されています。このエアーに問題があるのです。場合によっては薬液がエアーによって分離され、エアー抜きをしている時に薬液が針先から少し出て行ってしまうのです。必要量(0.5cc)より少ない薬液がエアーとともに残ります。こうなったらもう使えません。すでに3回もこんなことがおきました。初めは私の扱い方が悪いのだと思っていましたが、その後使用説明書をよく読んで気をつけて扱ってもうまく行かないことがありました。患者さんには改めて後日来てもらうことになり、迷惑をかけました。これは大変です。うっかりしていると、エアーを含んだ薬液を注射する事故が、いつかどこかでおきるかもしれません。また無理やり、少ない量の薬液(0.4〜0.3cc)で予防接種を行うこともおきるでしょう。これでは予防接種の役目を果たせないことになります。未完成度の製品なのです。誰が使っても失敗しないように作らないと、いつかはどこかで事故がおきます。予防接種の効果も低くなります。
薬品会社の人は、薬品の性質上エアーが入るのは直せないと言いました。完成品でないことを素直に認め、改善を試みているが完成品が作れないと苦汁を述べました。そして、気をつけてエアーが残らないようにしてくれと説明しました。
おかしい話です。いつ事故がおきてもおかしくない製品を我々に押し付け、注意して使ってくれと言うこの傲慢さは何でしょう。誰が扱っても、事故が起きないように、完成品を渡すのが企業の責任でしょう。しかも医薬品です。未完成の製品を売ってはいけません。使わせてはいけません。欠陥があると分かっていながら、これを隠して売り続けるなら三菱自動車と同じ事になります。自信をもって開発し、厚生省の認可も得た後で、実際に世に出してみると、突然予想外の欠陥が見つかり、慌てているように見えます。とりあえず、完成品ができるまでこの製品の回収をすべきではないでしょうか。
このことに関しては、厚生省にすでに届けているそうです。未完成品とわかっていて認可しているのなら、厚生省の責任が問われます。非加熱製剤を使ったエイズ禍を忘れてしまったのでしょうか。事故が起きた後に対応しようと考えているのでしょうか。教訓が生きていません。
「この注射キットを使うのを止めたい」と市の保健主任に連絡すると、「すでにこの薬品会社の人が来て、この件について説明して帰った」と言われました。
「厚生省から認可を受けた製品なので問題ありません。使い方を間違うとエアーが残るので、使い方を説明しておきました」と言ったそうです。私には、注射キットの欠点を認めながら、「改善できない」と言っておいて、市の担当者には「使用法に問題がある」と私を非難していたのです。厚生省に届けていると言っていましたが、多分注射キットの欠点を正しく申告しないで、「使用方法を誤ると、エアーが抜けないので、使用方法の周知徹底を図りたい」とウソの申告をしているのでしょう。
思わずうなりました。人の命を守ることより、会社の利益のみ追求する会社人間のあわれさが見えてきて悲しくなりました。人の命を守るために欠陥のない器具を使いたいと思う私と、会社と自分を守るために欠陥品を隠そうとする会社人間の間に漂う相容れない感情が黒く渦巻きます。どっと疲れて来ました。どこでも三菱自動車と同じことがおきているのです。
プロジェクトXは成功秘話です。この番組に取り上げられるほどの努力とアイデアで頑張っている人は、本当は少ないのです。それだけに感動を呼びます。多くの人は自分の身を守る事だけで精一杯なのです。悲しい人生です。私を含めて。
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激しい雷雨のあと、梅雨前線は消えました。すでに梅雨は終わったのでしょうか。暑い夏のような日差しになってきました。
夏の花ならムクゲ。朝に開き夕方にはしぼみます。この花は八重です。庭の片隅に何本か植えておいたら、何時の間にか大きくなっていました。

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