と言ってくる患者さんは毎日のようにいます。ここで慌てて、いわゆる「突発性難聴」と思って、急いで聴力検査をすれば大変な恥をかくことになるので、注意、注意!
 一般に急に耳が聞こえなくなるもので1番多いのは、驚くなかれ耳垢なのです。お年寄りであろうと、麗しのご令嬢にしても耳(外耳道)の中に耳垢をたっぷりつめて来院されます。

聴覚器の構造

外耳道の奥には鼓膜があり、その奥には中耳腔があります。そこには耳小骨(3つの小さな骨)が鼓膜と内耳を連絡していて、鼓膜に伝わった音を内耳まで伝えます。中耳腔には、耳管が開いています。耳管はのどに通じていて空気を出入りさせることで、中耳の気圧調整を行っています。内耳では、音を感じたり、平衡感覚を感じています。

   ここでおもむろに耳垢を取って、「どうです、聞こえますか?」と聞くと、「あっ、聞こえます」と、まるで私が魔法使いのように思ってくれる人もいます。「いつも耳垢を取っているんですけど?」というあるご婦人は、ご丁寧にも耳垢を奥へ奥へと押し込んでいました。耳が聞こえにくくなったら耳垢かもしれません。時々は、耳鼻科で診てもらいましょう。

 急に聞こえにくくなる難聴は、かぜをひいたあとに主に生じる滲出性中耳炎もあります。かぜをひいたあと、耳がつまったようだ、自分の声が響くと思ったら、まずこれを疑って下さい。滲出性中耳炎になったら、耳管通気、鼓膜切開、チュービング(鼓膜に換気用チューブを挿入する)などの治療法があります。薬として、漢方薬では柴苓湯が有名ですが、小柴胡湯でも柴胡桂枝湯でも香蘇散でも十分に効果があります。

(1993年2月)

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