「治りました。3日で治りました。食事も食べれるようになり、元気に運動もできるようになりました」
 この1週間前、少し離れた町に住む少年2人と母親が診察室に入ってきました。
 「昨年の9月に身体がだるく、むかむかして、ほとんど食事がとれなくなりました。かぜ気味で、フラッとすることも多くなりました。中学校も休みがちで、いろいろと治療をしてもらいましたが良くなりません。治らないので3月からは漢方薬局で漢方薬をもらい飲んでいます。少しは良いかな、という感じですが、症状は相変わらずで、週に1、2度は学校を休んでいます。友人に紹介してもらって来ました。治るでしょうか」
 昨年の9月から今年の6月末まで、全身倦怠感、食欲不振、易疲労感のある13歳の少年の話です。こういう人は時々見かけられます。検査をしても異常が見られないので、慢性疲労症候群とか、自律神経失調症とかの病名がつくことが多いようです。
 私の診断は簡単です。「くすぶり症」です。聞き慣れない病名です。そうです。これは私の命名した病名だからです。扁桃から上咽頭にかけて軽い炎症が持続すると、このような病状が続くと、私は考えています。
 治療も簡単です。扁桃から上咽頭を綿棒で触ってあげます。そして適切な漢方薬を処方します。この少年には人参養栄湯と逍遥散が薬局で出ていましたが、私は香蘇散を出しました。
 治療をして1週間後、元気よく3人が入ってこられました。症状は全て取れていました。同様の症状が1カ月前から続いていた弟も、同じ治療で治りました。「実は、私も」と母親が切り出しました。「いつもかぜをひきやすく、のどが痛くなりやすいのです」…この母親には咽頭処置と葛根湯で十分です。
 日常よく見かけるのは、のどの異和感を訴える人、微熱の続く人、疲労倦怠の続く人などで、このような人はほとんどが「くすぶり症」と考えられ、この治療ではほとんどが治ります。6カ月も微熱の続いた小学生、2カ月も熱が出たり引いたりした高校生など。いろいろと検査をしても異常が見つからず、不明熱といわれ、放置されるケースも多いようです。のどの異和感のある人で、神経症とかうつ病とかいわれる場合もありますが、結果はそうだとしても、原因は「くすぶり症」であったと思われる人も多く見かけられます。
 簡単な病気でも、原因がはっきりしないと不安感が生まれ、身体まで萎えてきます。医療が進歩して高度化してきても、簡単な病気を見過ごしてしまい、治療法もわからないという不思議なことが、時々医療現場では見られます。

(1996年8月)


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