(2021年11月23日掲載)
私は上咽頭炎の治療を30年以上行っています。
最近、慢性上咽頭炎に関する本が出てきて、この病気に対する意識が高まってきました。
この病気に関連する学会も立ち上がり、熱心に運営されています。
私もこの学会に入会しました。しかし、私の治療とは少し異なった治療法が紹介されていて、しかもそれがこの学会の主流治療となっていました。
振り返ってみれば、この疾病に関する私の治療法は、私が発見した治療法であり、この学会の治療法とは異なっているのです。
数年前、私の治療法をこの学会で紹介する機会が与えられ、発表しました。その時は、新しい治療法として評価されましたが、その後、この学会に出席することもなくなりました。
私が私の治療法を発表すれば、この学会の治療法を批判することになり、この学会に居づらくなると感じはじめたためです。
上咽頭炎に関するこの本などで私の医院も「上咽頭炎治療医療機関」として紹介されたため、関連した患者さんが来られるようになりました。
たいていは私の治療法で治せるのですが、時々難渋する方がいらっしゃいます。
この方は一年間苦労して、最近やっと解決方法がみつかり、良くなってきました。
やや高齢の方です。常に後鼻漏(本人談)があり、待合室では「ウーン、ゲー、ゲー」と大きい音を立てて痰を切り、吐き出しています。どこに行っても治らないと泣き言を聞かされて診察が始まりました。
元々副鼻腔炎があったため何回か副鼻腔炎の手術をしていますが、いまだに後鼻漏が治らないと訴えられていました。
確かに鼻腔内に小さいポリープがありその周辺から粘性鼻漏が少し見られましたが、原因はそれだけではないようです。
治療で上咽頭の後鼻漏は改善してきたのに、痰を切り吐き出す行為は治りません。
内科などでも去痰剤を出されていますが効いていません。
ある時のどを診ていてふと気付きました。痰と思われる分泌物は上咽頭ではなく下咽頭にありました。下咽頭と食道は食道の上部で繋がっています。
私が出す漢方薬などは出してもお腹に悪いといってすぐに止めてしまいます。
腸が弱く下痢しやすいと説明されてきましたが、改めて詳しく聞くと、腸に病気があるので便を貯めないように(便秘がこの腸の病気に一番悪いそうです)下剤をずっと飲んでいるのだそうです。しかも通常の2倍も。それならどんな薬もお腹にくるでしょう。そのとき私の頭にぱっと閃くものがありました。
下咽頭にあるのは痰ではなく、下剤の影響で腸管で吸収されない水分などの残渣物なのではないか。過剰の下剤が過剰の水様性分泌物を腸管内を溢れるほどに生じ、それが下咽頭まで上昇しているのではないかと考えました。
私の漢方薬の得意処方に「便秘に麻子仁丸(ましにんがん)」があります。これはほどよく便秘を治してくれます。麻子仁丸でなんとかなりそうだと思いつき、早速下剤をやめてもらい、麻子仁丸にしてもらうと、「ゲーゲー、カッ、カッ」が減りました。便秘にもなっていません。今は去痰剤も全てやめて麻子仁丸だけを飲んでいるそうです。
一年間難渋した上咽頭炎(と思っているもの)は下咽頭由来の水様性分泌物であり、結局は下剤の取り過ぎによる薬剤性水様性物質分泌過多だったのです。
問診を取っている段階で、腸の病気のために下剤を過剰に内服しているとは聞かされていませんでした。まさかこれが原因と誰も思っていなかったのです。
後鼻漏は粘液が上咽頭に付着しやすいもの、上咽頭からでてくる分泌物、上咽頭の襞(ローゼンミュラー管)からでてくる分泌物、乾燥性上咽頭炎、副鼻腔炎由来の後鼻漏など様々なものがあり、それぞれに対応した治療法で治します。