冬も終わりの頃、美しいご婦人が青白い顔をしてやって来ました。
 「めまいがします。寝ていて頭を動かすとくらっとします」
 「耳鳴りや聞こえにくさはありますか?」

 「ありません」
 「寝ていて右を向いたときですか、左を向いたときですか?」
 「どちらを向いてもめまいがします。起き上がる時も、立っていて、下を向いた時もします」
 私は、やおら肩から首すじをそっと触れてみます。こういう時は医学的な顔?をしてさわらないと感違いされます。うむうむあるある、めまいの筋が。めまいを起こす人には不思議と特徴的な筋肉のこりがみつかるのです。肩こりが原因のめまいです。ツボに治療を施し、葛根湯を処方すると3〜4日で治ります。こういうめまいは教科書には載っていません。日常診療ではよく教科書にはないものを発見します。これもその一つです。
 65歳のご婦人が何やら覚束ない足どりで入ってくるなり、
 「今日はフラフラします。めまいがするのです。内科ではメニエルと言われ、薬をもらっているのですが、良くなりません」
 「どんな薬ですか?」
 薬を見せてもらうとめまいに効く薬や精神安定剤が入っています。
 「今日は、これを飲むのを止めて、また、明日来て下さい」
 翌日、「よくなりました、治りました」このご婦人は、明るく入ってきました。
 薬の副作用によるめまいも多いのです。精神安定剤は注意して飲んで下さいネ。
 めまいには、メニエル病、良性発作性頭位めまい症、前庭神経炎や脳動脈硬化に伴うめまい、聴神経腫瘍などいろいろありますが、原因が十分に解明されていないものや、検査をしてもはっきり出ないことがあるため、診断に苦労することが少なくありません。十分な問診の方が診断には重要な手助けとなります。漢方薬では苓桂朮甘湯、半夏白朮天麻湯が効きます。

(1993年5月)

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