くしゅん、くしゃん、くしゃん、ハックショーン! 大きな声で、Tさんがまた、待合室でくしゃみの連発をしています「くしゃみが出るけど、これをせんと、すっきりせんですな」3日に1度の通気療法をしたあと、顔をくしゃくしゃにして、半分満足そうに、半分恥ずかしそうにして帰ってゆきました。

 「少し聞こえが悪くなりました」
 「耳を見せて下さい、ウーン、水が少し溜まっていますね、
切開して出しましょうか」
 「チョッと待って下さい、他に方法はありませんか」
 「かぜを耳に通せば治るかもしれませんよ」

 これからNさんの通気療法が始まりました。
 通気をしていると、途中からコホン、コホン、せきが出てきて、私の手を制し、通気管を引き抜きました。1週間、同じように続いたあと、突然来なくなり、2週間後に、またやって来て、「せきが出るからしばらく休んでたんですが、うっとうしいからまた、かぜを通して下さい。今日は3回だけして下さい」
 次の日は、「今日は5回して下さい」
 次の日は、「今日は7回して下さい」
 そして、「今日は9回して下さい」と、1日1日回数が増えてゆきます。10回通気して「今日は、1回おまけしておきましたよ」

 半年前のこと、突然宅急便が届き、大きいリンゴの箱をいただきました。最近よく来院しているIさんからです。「ありがとうございました」通気をしながらお礼を述べると、「いやアー、もう聞こえないとあきらめていたのに、よく聞こえるようになり、先生ありがとうございました」それから毎日のように通気治療に来院され、時々植木鉢を置いて帰られます。時には、庭木の世話もして下さいます。ある時、聴力検査をしてみると、確かに聴力は改善していたのです。

 耳管機能が悪く、耳が塞がった感じがしたり、中耳腔に貯留液のみられる滲出性中耳炎などにこの処置を行います。
 ただ単に耳管に空気を送り込むだけの単純な処置ですが、これが意外と難しく、楽々できるようになると耳鼻科医として一人前と言われています。私も駆け出しの医者の頃、うまくできなかった想い出がたくさんあります。この処置をすると、耳閉感が取れ、頭がすっきりし、聴力も改善することがあるようで、効果についても馬鹿にできません。滲出性中耳炎も、これだけで治ることもよくあります。また、ある種の耳鳴りも治すことができます。
 くしゃみやせきの咽頭反射がごくまれにみられますが、普通は痛みもなく快適に治療することができます。
 たかが耳管通気、されど耳管通気―。

(1993年7月)

Q.のどから空気を入れて、鼓膜の内と外の気圧を一定にすると鼓膜がよく振動するようになるという ことですね。つばを飲み込んでグウッと耳が鳴っている時も、空気が入っているのでしょうか。
A.上咽頭と耳をつなぐ耳管に空気を送るには、耳管通気カテーテルを鼻から耳管咽頭口に当てて送る方法 と、ポリッツェル球で送る方法、鼻と口を閉じて強くいきんで空気を送るバルサルバ法があります。
 空気が入ると耳管の開く音や鼓膜の動く音が自覚されることがあります。


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