2025年4月24日号
「今週の談話」
耳垢を取ってほしいと言う患者さんは耳鼻咽喉科外来ではよくあることです。
やわらかい軟性耳垢の方は頻回に耳垢が生じやすく、乾いている耳垢の人は比較的余りたまらない傾向があります。
今回耳垢治療で前代未聞の事態に出くわしました。
2歳の子供さんを母親が連れて来られました。耳垢を取ってほしいという要望でした。私は耳の治療はベッドに寝かして耳用の顕微鏡で治療していますので、今回もベッドに寝かして、頭が動くと耳の中は見えなくなるので、スタッフに顔と体を動かないように持ってもらいました。そして耳垢を取ろうとすると、急に泣きわめき、激しく動いて治療しにくくなりました。それでも、耳垢がたくさんありましたので、何とかして取ってあげないと難聴のままで過ごすことになり、発育も遅れるだろうと瞬間的にその思いが頭に浮かびましたので、何とか取ることにしました。耳垢水で耳垢を柔らかくしたりして、耳垢の吸引とピンセットでの除去を繰り返しながら治療を続け、何とか両耳の耳垢を取ることができました。
その数時間後にその子の父親から急に電話がかかってきました。「頭と体を抑えられていたそうで、顔と体が赤くなっている。いじめと、虐待じゃないか、謝れ」と、すごい剣幕でまくしたてます。

人を手で圧迫すれば少しの間は赤味を帯びます。しかし、何も障害は生じません。1~2日もすれば赤味は消えます。これはよくあることです。
母親が子供さんの顔が帰ってみたら赤くなっているのにびっくりして、遠くにいる父親に写真メールを撮って送ったようで、そういうことになったそうです。
翌日、念のため耳に綿を入れていたのでそれを除去するために母親が子供さんを連れて来られました。そのとき皮膚の赤味はほとんど消えていました。
私たちは手で押さえると一時的にその部位が赤くなることは常識として慣れていますが、それを知らない人が我が子の表情の変化を見れば、びっくりすることはありうることです。「あとで顔が赤くなるかも知れませんが、すぐに元に戻ります」と言うべきだったのかも知れませんが、日常的によくあることなので、そこまで気が回りませんでした。これからは、その辺の一言が必要だと思いました。
今まで4件ほどの耳鼻咽喉科に行ったことがあったそうですが、どこでも耳垢をきれいに取ってもらったことはなく、耳を見ないところや、少しだけ取るとこまで色々で、今回のようにきれいに取ってくれた所はなかったと、子供さんを抱きながら母親が感謝してくれたのがせめてもの救いでした。
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藤の花が咲く季節になりました。藤棚の下を通ると甘い匂いがしてくるのに気づきました。藤の花の匂いに今まで気づいていませんでした。

藤の花甘き匂いを深く吸う
