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![]() との報道が以前ありました。テレビでは、事故現場の生々しい血痕を写し出していました。たけし氏は、頭を打ち、耳からの出血もあったそうです。これを聞くと、我々耳鼻科医の頭の中には、耳出血→側頭骨骨折→顔面神経麻痺という図式が浮かんできます。案の定、時々出てくる報道では、顔面に麻痺が出ていると言っていました。 後日、突然彼は退院し、インタビューがありました。心配していた通り右顔面に表情はなく、顔面神経麻痺が高度に残っていました。痛々しい会見でした。「手術は成功しなかったのか?」と思っていると、主治医は手術を勧めたが本人がこれを拒否したというのです。あの毒舌で鳴らすたけし氏も、意外と小心者で手術が怖かったのか。手術をせずに半年後にはリハビリで回復させるという、まったく信じ難い話です。手術をすれば、残ったとしても軽い麻痺で済むでしょう。しかし、手術をしないと麻痺が強く残る恐れも。 主治医がいくら手術を勧めても、本人の同意なくして手術できません。いわゆるインフォームド・コンセントの問題です。治るものを治らなくさせる問題がここにあります。本当に必要ならある程度本人の同意を無視してでも手術を行う方が、本人のためにもよい結果を招くこともあるはずです。しかし、今の世の中、このようなことはできるはずもありません。医師のできることは、とにかく根気強く手術を勧めることしかないようです。また数日後、テレビに出演したたけし氏の表情はほとんど変わっていませんでした。 一般に顔面神経麻痺は、頭部外傷後に生じるもの、中耳炎によるもの、帯状疱疹ウイルスの感染によるものなどがありますが、1番多いのが原因のはっきりしていないベル麻痺といわれるものです。ベル麻痺は、日常診療でも時々見られるもので、比較的治りやすい麻痺です。軽度なものでは、葛根湯で治ったことも。手術を必要とする重度の場合も。 麻痺の軽い人は、薬を使えばまず治りますから安心ですが、薬をいくら使っても治りの遅い人が困ります。「手術を勧めようか、いやもう少し様子を見よう。しかし、ずるずると治療していて治らなかったらどうしよう。手術を勧めて全然治らなかったらもっといやだナ」と心の中で激しい葛藤がはじまります。 精進をし、迷わない医師になりたいものです。 (1994年11月) |
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