「私の子供のことなんですけど、なかなか中耳炎が治りにくくて、この2カ月に6回も鼓膜切開したのですが、こんなものなのでしょうか」と、医師会の忘年会の席で、ある先生から質問を受けました。
 「おいくつですか」
 「1歳です」
 「そうですか、1歳前後が一番治りにくいですネ。でも、方法はいろいろとあります」と、難治性の中耳炎について、私が工夫していることを含めて説明しました。
 一般に1歳前後の乳幼児は免疫力が弱く、1度中耳炎にかかると治りにくくなります。病気は恐らく、自分の体力(免疫力)による回復力が半分、そして薬による治癒力が半分と考えてみてよさそうです。よく効く薬をいくら出しても基礎体力(免疫力)が弱いと、治りにくいことは当たり前です。
 抗生剤も、よく効くものから効きにくいものまで多種多様です。1つの薬を長い間続けても効果は少なくなるので、タイミングよく薬を変更することも大切です。
 中耳炎は中耳に生じた感染で中耳腔に膿がたまる病気ですが、とりあえず鼓膜切開して膿を出します。しかし、中耳の炎症は完全に治るまでに2週間以上かかるのに対して、切開した鼓膜は2〜3日で閉じてしまい、元の状態に戻ってしまいます。したがって何回か鼓膜切開を繰り返すこともあります。難治性の場合は、排液用鼓膜チューブを挿入して十分に膿を出し、早く乾燥させる方法も取られます。
 薬、鼓膜切開が一般的な治療です。しかし、体力(免疫力)を高めることも大切です。私はこれに対して、東洋医学的方法で取り組んでいます。漢方薬では、小建中湯、黄耆建中湯、小柴胡湯、柴胡桂枝湯、柴胡清肝湯などが効果が高く、その時の状態に応じて処方することが大切です。耳に関係するつぼの治療も功を奏します。
 耳と鼻は耳管でつながっているため、副鼻腔炎、鼻のアレルギーのある人は特に治りにくく、こちらの治療も同時に行うことも必要です。最近も、1歳程度の子供で鼻水が多く、中耳炎を繰り返す例が3例ありましたが、これらの方法を組み合わすことにより、状態が良くなりました。中耳炎、副鼻腔炎などは治るまでに時間がかかります。治療を行う方も、受ける方も根気強く臨まねばなりません。お互いの信頼関係も大切にしたいものです。
 寒くなるとかぜをひきやすく、鼻も耳も悪くなりやすいため、早期治療を心がけたいものです。

(1996年12月)


BACK | NEXT