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「先生、Nさんのお父さんがウルウルになって来ています」
受付嬢が少し興奮気味に伝えてきました。診察室に入って来たお父さんは、確かに目をうるませています。
「先生、ありがとうございました。娘はすっかり良くなりました。たった3日で治ったのです。今まで6年間毎日毎日地獄のような苦しみでしたが、3日間先生の薬を使っただけでほとんど良くなりました。6年間の苦しみは何だったのか。娘も思春期になり、毎日毎日気になっていたのです」
この3日間、子供がアトピー性皮膚炎で苦しんでいるので診てほしいとNさんを連れてやって来ました。中学生の顔は赤く腫れたようで首のまわりから胸のあたりも発赤があります。肘の内側も悪くなっています。
「どの程度まで治るかわかりませんがこれを使ってみて下さい」
と、特製の漢方の軟膏と漢方薬(温清飲と四物湯)を出しました。これが大変よく効いたようで、父親がうれしさを隠しきれず報告に来てくれました。数日後来院したNさんは、顔にややピンク色のアトピーが少し残っているだけで、確かにほとんどきれいに治っていました。
Nさんは6年前からアトピーが出てきたため、主にステロイド軟膏で治療してきました。症状は一進一退で、主治医から「もうステロイドの内服しかない」と言われ、わずかの望みを抱いて当院を受診したのでした。
「漢方は治りませんよ、と言われていたので半信半疑でしたが、結局は漢方で治りました」
父親の笑顔を見て私もうれしくなりました。
このように難治性のアトピーが劇的に治った例は多くはありません。普通は徐々にしか改善してゆきません。よっぽど処方がこの人に合ったのでしょう。
漢方薬を勉強していると、さまざまな治りにくい病気が突然治ったりすることを経験します。西洋薬では救えない病気を運よく治すことができることもあるのです。また、漢方は当然全身を診るため、私も耳鼻科医でありながらアトピー性皮膚炎から腰痛症までついつい治療しています。今回のように患者さんに喜んでもらえることが私の励みになります。
アトピー性皮膚炎は大変さまざまな要因がからんで病気ができ上がっているため、治療も困難を極めることが多くなります。西洋薬ではステロイド療法が主です。この薬の副作用で逆に悪くなる場合もあるため、よりマイルドな漢方薬が頼られるケースも出てきます。漢方は、生薬を自由に加減し、オリジナルな薬として処方される場合も多くなります。軟膏も同じようにオリジナルなものを作ることが可能です。経験を積めば、より効果的な軟膏ができあがるのです。
「漢方は奥が深い」とよくいわれます。西洋薬は、この病気にはこの薬と簡単に処方が決まるため、主治医の腕の見せ所は全くありません。病気を正しく診断すればどんな体質の人にも同じ薬が出されます。漢方薬は、体質体力によって処方が異なるため、主治医のわずかの判断の差で同じ病気でも何種類もの薬の処方が出てきます。また、処方は病気の治り加減で時々刻々と変化します。奥の深さはここにあるのです。生半可な知識では極めることが不可能です。しかし、うまくゆけば西洋薬で治せない病気も治せるようになります。ここに漢方を学ぶ者の秘かな喜びがあります。私は漢方は一生かかっても極めれそうにありませんが、今回のアトピーのような症例を積み重ねてゆけば少しずつ前進してゆけると思います。
(1997年9月)
| One
Point Advice |
私のアトピー性皮膚炎治療 |
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アトピー性皮膚炎はかゆみが強く、皮膚が乾燥することが悪化の原因とな
っています。かゆみを取る目的で黄連解毒湯を主として用いています。保湿
と皮疹改善のために特製の漢方生薬軟膏(アトリー軟膏)を塗っています。かゆみが強いと包帯によるひっかき防止を勧めます。漢方薬では、温清飲、十全大補湯、治頭瘡一方もよく用います。 |
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| Q.ステロイド剤は副作用がこわいというイメージがありますが、どう使えばよいのでしょうか。
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| A.ステロイド剤は、長期使用した場合に副作用が問題となってきますが、炎症を止める薬としては大変効果が高く、ある程度の期間なら副作用はほとんど出ません。上手に使うことが大切です。 |
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