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「小児科医が中耳炎の治療もできると新聞に書いていたけど、これはおかしい。鼓膜切開のときだけ耳鼻科医にしてもらうだって。小児科医が耳鼻科の領域に入っているのなら問題だな」 耳鼻科医の友人と、会合の後話をしていると、こんな話題が出てきました。ある新聞の健康のコーナーに出ていた記事が問題になっていました。この小児科の先生は耳鼻科の教科書を開いたり、耳鼻科医に相談したらしく、中耳炎について上手に説明しています。この記事が世間のお母さん方に誤解を与えそうな点がいくつかあります。 「赤ちゃんの場合は、機嫌が悪く、熱だけのときは必ず中耳炎を疑います」 確かに、夜ぐずって寝ない場合は、中耳炎になっている可能性は高く、正しいと思います。 「ほとんど耳管を介して中耳腔にバイ菌が入り、中耳炎になります」 中耳炎は鼻腔周りの菌が耳管を経由して中耳腔に入ることもありますが、中耳腔周囲の組織の中に菌が住んでいて、感冒と同時に菌が増え中耳炎になる場合も多く、滲出性中耳炎は主にこのようにして生じています。 「鼓膜が赤いだけならば、抗生物質を与えながら診ていきます」 鼓膜が赤い時は中耳炎のなり始めであり、1日か2日すれば中耳腔に膿が溜まってくることがほとんどです。滲出性中耳炎は、このように中耳炎を見のがした時の状態でもあります。実際はこうしたケースが非常に多くみられます。「小児科では異常はないと言われています」とお母さんに言われながらも耳を診ると、すでに滲出性中耳炎となって聞こえにくく、気嫌を悪くしている場合が多いものです。滲出性中耳炎のほとんどは、中耳炎の後遺症と考えられます。 「鼓膜を切開して何回か液体を排出させますが、なかなか治らないときには、鼓膜に管を入れたままにしておきます」 これは耳鼻科医の処置の方法を言っているのでしょう。 「原因がまだ十分にわかっていないので、今後、治療法は変わっていくと思います」 原因は耳管、中耳腔に慢性炎症(アレルギー反応)があり、耳管での換気が不足することだといわれています。しかし、私の見たところでは、1番多いのは中耳炎の見過ごしであり、中耳炎後遺症です。耳鼻科医がしっかり耳を観察してゆけば、滲出性中耳炎はかなり減ります。 「一般小児科医は、耳鏡で耳も診ます」 耳鏡は耳の穴を見る朝顔型の器具です。耳の奥は長く暗く、小児科医のもっている耳鏡では観察は不十分です。我々も耳鏡だけでは2割近くは誤診します。今は、耳鏡の10倍以上はよく見え、光量の豊富な顕微鏡が用いられることがほとんどです。耳鏡では耳は見えても、耳は十分には診断できません。 耳(鼓膜)は極めて観察のしにくい器官であり、それだけに見誤りも多く見られます。私はいつも、耳だけは耳鼻科医にしかわからないと思っています。患者さんの中には、耳が赤いと言われた人が実は耳垢であったり、中耳炎はないと言われた人が滲出性中耳炎であったり、鼓膜がないと言われた人が鼓膜の陥没であったりと、不思議なことがたくさんあります。 耳は、豊かな経験と豊かな目がないと正しい診断は下せないし、適切な治療は施せません。 最近は、耳をしっかりと見る小児科医も増えていますが、本当に治療できるのは耳鼻科医ですので、耳は我々に任せてほしいと思います。 (1998年1月)
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