「2カ月以上耳漏が出て止まりません。」
少し離れた所から来られた50歳ほどのご婦人が、何とかならないかと心配そうに話しています。
「耳を診せて下さい」
鼓膜を診ると、小さい穴が開き、そこから膿性耳漏が脈圧とともにどくどく出てきています。急性中耳炎の症状が続いているようです。
今まで受けてきた治療はごく一般的な治療で、まったく問題は見当たらず、なぜ治らないのか不思議に思いました。
「今までの治療で問題はないのですが、薬が少し合いにくいのかもしれません。薬の効きにくい難治性中耳炎だと思いますので、薬を変えて治療してみます」
と説明をして、治療を開始しました。
耳漏で汚れている外耳道を十分に洗浄したあと、開いている鼓膜の穴を利用して中耳腔に抗生物質入りの点耳液を注入しました。注入してもどくどくと耳漏が沸き上がってきます。
いかにも治りにくそうです。内服薬として適当な抗生物質を選び、処方しました。
2日間同じ治療をしましたが、耳漏は余り減っていません。ここで漢方薬(柴苓湯)を一緒に飲んでもらうことにしました。漢方薬で難治性中耳炎が良くなったことがあったのです。
その2日後、耳漏は減ってきました。結局、治療開始1週間で耳漏は止まり、耳の中は乾いてきました。まだ鼓膜穿孔は残っていましたので、穴の上に補修膜(ペルナック)を当てておきました。その1週間後、鼓膜が完全に再生したのを確認して、治療を終えました。
急性中耳炎は、時として治りにくいことがあり、長期化することもしばしばです。特に免疫力の弱い乳幼児にはこの傾向がよくみられます。
耳鼻咽喉科の専門書によると、急性中耳炎の原因菌は、肺炎球菌、インフルエンザ菌やブドウ球菌がほとんどですが、最近は抗生物質の効きにくい耐性菌が増加しているため、難治性中耳炎が増加しているそうです。
抗生物質の使い方は大変難しく、よく効くといわれ、よく使われている抗生物質も、私の拙い経験では効果のうすいものもあります。試験管レベルでは効果が高くても、ヒトの身体の中に入れば効果が薄れるということもあるのでしょう。
私は薬が全ての人に平等に効果があるということはないと思っています。免疫力の高い人には少量の薬でも効きますが、免疫力の弱い人にはいくら多量に薬を使っても効かないことは明らかです。それなら、薬の効きにくい人には免疫力を高めればよいというのが私の考えです。
免疫力を高める工夫。これは実際の医療現場では特殊な治療として行われているだけです。しかし、ある種の漢方薬(柴胡剤など)で、ある程度は免疫力を引き上げることができます。難治性の中耳炎でも抗生物質を適切に使い、このような漢方薬を併用すれば功を奏することがあります。ただ、こうした治療はどうしても経験による判断に頼ることが多く、一般化しにくい点があることも事実です。
急性中耳炎は今も昔も難しい病気の1つです。
(1998年3月)
One
Point Advice |
虚弱児の体質改善 |
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食が細い、熱が出やすい、かぜをすぐにひく、中耳炎、副鼻腔炎、扁桃炎を繰り返す、といった症状の他に、アトピー性皮膚炎や喘息のようなアレルギー体質も虚弱体質と関係しています。虚弱体質は、西洋医学的には病気ではありませんが、漢方では体質改善の効果が期待できます。これらの漢方薬はマクロファージやNK細胞という免疫力を高める細胞を活性化させる働きを持っています。
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