「めまい、耳鳴り、聴力が悪く治療を受けているのですが治りません」
 60歳過ぎのご婦人が来院されました。数年前からめまいと聴覚の異常を繰り返していて、近くの病院でメニエル病と言われ、治療を受けているそうです。一進一退で今一つ治りが悪いようです。薬として、抗めまい剤と浮腫をとる薬が出されています。
 私は、肩こりが強かったので、まず肩こりを治したあと、三間中渚などに経穴療法(つぼの治療)を行い、苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)と四物湯(しもつとう)を処方しました。2週間後には肩も楽になり、めまい感もほとんど良くなっていました。聴力も、左側1000Hzが70dB↓55dB、2000Hzが60dB↓40dBと改善し、耳が楽になったそうです。ただ耳鳴りは治りにくく、続いています。
 メニエル病は一般に、回転性めまいを反復し、耳鳴り、難聴などの蝸牛症状が反復して生じることが定義になっていますが、実際のところ治りにくい病気で、個人差も大きいようです。研究する人も多いのですが、原因はまだ十二分には究明されていません。そして、治療も確実な方法はまだ確立されていません。そのためかメニエル病と診断されて治療を行っても、すっきりと治らない場合も多いのです。
 私は、西洋薬で治りにくい場合は、東洋医学的治療を試みることにしています。メニエル病の場合は、主に苓桂朮甘湯の投薬とつぼの治療を行っています。この治療を行うようになってから、メニエル病に対する治療効果が良くなってきました。メニエル病は発作が生じると大変苦しいものですから、予防的に苓桂朮甘湯を飲んでもらい、発作が起きないようにしてもらっている人も多くいらっしゃいます。
 メニエル病は、主に内リンパ水腫が原因といわれています。したがって、この水腫を改善させる薬が必要であることは疑いのないところです。浮腫をとる薬は、このためによく用いられています。しかし、私の拙い経験では、大変飲みにくい割には効果は今一つという印象です。水分を調節する作用という点では同じですが、漢方薬の苓桂朮甘湯の方がよく効くようです。めまいの治療薬として知られるめまい剤もすっきりと効いたという印象は余りありません。
 めまいの研究は諸氏のご努力で進歩しています。しかし、治療法は薬が進歩しないためほとんど変わっていません。私は東洋医学的知恵で多少とも治療法を高めたいと考えています。

(1998年11月)

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