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「ドライブ旅行から帰った後から、ずっと耳がつまった感じがしておかしいンだ。2〜3日しても変わらないので病院で調べてもらい、低音域の突発性難聴と言われ、薬を飲んでるンだけど治らない」 と、遠くにいる親友から電話をもらいました。イライラした様子が伝わってきました。 「自分の声は響かないけど人の声がワーンと響いて聞き取りにくい。時々はパッと聞こえるようになるけどね」 「ウーン、おかしいナ。耳とノドの上をつなぐ耳管がつまっていると思うんだけど、そうは言われなかった?」 「耳管の開き具合も調べてたけど異常はないと言ってたと思うヨ」 「検査は時々ハズレることがあるから何とも言えないけど、もう少し治療してもらった方がいいと思うヨ」 と、お互いにすっきりとしない電話のやり取りに終わりました。 数日後、突然出張のついでと彼が来院してきました。 「まだ治っていないの」 「そうなんだ、チョッと診てくれる?」 耳を診ると鼓膜は正常です。聴力検査でも低音域を中心に30dB程度の聴力の低下があります。耳管機能検査でも正常です。しかし、僕の耳鼻科医としての勘は、「耳管狭窄症」です。 「そこに座ってみて」 私は、耳管通気を試みました。案の定、空気は抜けてゆきません。まったく片方は通気できないのです。 「やっぱり、耳管がつまっていたんだヨ」 と、説明するものの、友人は十分には納得していません。そこで鼓膜に少し穴を開けて少しでも空気が通りやすくして通気を行うと、スーッと音がして耳管が開いていきました。 「オッ、聞こえるヨ」 やっと友人に笑顔が出ました。聴力検査をすると10dBまで聴力が上がっていました。私は、今まで何回も、検査による診断と自分の勘による診断(問診のみによる診断)に差のあることを経験しています。 おそらく医師ならば誰でもこんな経験はたくさんもっていると思います。医療機器はいくら進歩しても、所詮、人間が作った機械なので、あらゆる状況に即応することは不可能なのかもしれません。 今のコンピューターの進歩した時代では、さらに複雑な医療機器が作られ、医師もどんどん使っていくことでしょう。数字を前に医師は診断を行い、患者さんは納得します。しかし、ここに微妙な落とし穴があります。どんなに進歩しても、やはり機械は機械。全部は信じてはいけません。あくまでも数字は参考にとどめたいものです。今回のように、聴力検査上は低音域の混合性難聴が、本当は伝音性難聴であったり、耳管機能検査で異常なかったものが、本当はまったくの耳管機能不全であったりと、日常診療でおかしいことはいっぱいあります。 検査は一つの目安。信じるは自分の目。これは耳鼻科医としての私の目指す信条です。 ![]() (1999年1月)
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