「12日前からのどが痛く、微熱も続いています。熱は夕方に37度以上出ます。腰が冷え、何回もトイレに行きます。寒気がします。内科で10日間治療してもらっていますが良くなりません」と、73歳になるご婦人が来院されました。内科でもらっている薬も持参されましたが、10種類くらいもらっています。抗生剤下熱鎮痛剤去痰剤せき止め消炎剤など、それぞれの症状に応じて薬が出ています。
 のどを診ると咽頭の発赤腫脹があり、かぜの症状が続いていることは明らかです。では、なぜこの方はこのような薬を飲みながら治らなかったのでしょうか。私なりの考えでは、この方は、寒気が強い冷えの体質であるため、西洋薬でますます身体を冷やし、体調を悪化させていたのでしょう。虚弱体質の人は、西洋薬でかえって体力を消耗することもあります。経穴治療
 咽頭痛、微熱を取るために、咽頭処理を行った後、大椎隠白合谷(左イラスト)などに経穴治療を施しました。漢方薬として、身体を暖める効果の高い麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)を処方しました。この薬は、悪寒が強く、青白い顔をして、咽痛、せき、関節痛などを伴うかぜに使いますが、特に虚弱者や老人に多く用います。治療を3日行い、発熱、咽頭痛などの症状は取れました。冷えも取れ、トイレに行く回数も減りました。すっかり元気を回復し、治療を終えました。
 この例のように、漢方薬1剤で、西洋薬をたくさん用いるよりもよく効くことがあります。西洋薬は1つの症状に1つの薬というような使い方をするために、かぜでもたくさんの薬を飲まざるを得ないことがあります。漢方薬は基本的に主たる病変を治し、結果として個々の症状も改善させます。1つの薬の中に、多くの生薬が入っているために、1つの薬で多くの症状を改善させることもできるのです。
 経穴療法(ツボの治療)は、自然治癒力を高める治療法です。これだけでも、ある程度はいろいろな症状を改善することができます。
 今の治療法は薬の積み重ねです。年を取るにしたがって、症状も多くなり、飲む数も増えてゆきます。多くの薬を飲んで身体が良くなるかといえば、必ずしもそうとはいえません。逆に体調がくずれてゆくこともあるのです。症状の一つひとつを改善するよりも、全体として元気になるように常に心がけることが医者の務めと思います。薬を整理し、減らしてゆくことも医者の務めの1つです。少ない数の薬と自然治癒力を高めることで身体の歪みを修正する治療法―東洋医学が力を発揮することも時にはあるのです。東洋医学の知恵と西洋医学の知恵を上手に組み合わせ、治療効果を高めたいと考えています。


(1998年9月)

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