「先生、私は産婦人科で逆子になっているから今度治っていなかったら手で治しましょう、と言われているのですが、先生は東洋医学をされているので東洋医学で治してもらえませんか」
と、中耳炎で治療をしている2歳児の母親が突然相談してきました。よく聞くと、今は妊娠8カ月で、東洋医学で逆子が治ったと聞いたことがあるので、ぜひ治してほしいとのことです。
「えっ? 逆子ですか。私は治療したことがないので無理ですよ」
と言いながらも、以前勉強したことがある至陰のツボが頭の中にパッと閃めきました。訴えるような母親の顔を見て思わず、
「知り合いの専門家に相談してみますから少しお待ち下さい」
と言ってしまいました。急いで県立中央病院の東洋医学研究所のY先生に電話して相談してみました。Y先生はM所長と共に東洋医学研究所を支える私の師匠です。
「逆子を治してほしいと言われたのですが、やってみていいですか。至陰と三陰交のツボでよかったですよネ」
「やって下さい。ぜひして下さい。私も興味がありますのでやってみて下さい。決して悪くはなりませんから」
と、大いに勧められました。さすがに初めて試みるのは勇気が要ります。変になったらどうしようと、不安も脳裏をかすめます。
「治るかどうかわかりませんが、ツボをお教えしますので、ツボにお灸をすえて下さい」
と、三陰交と至陰のツボを教えたあと、とりあえずここに針治療を施しました。
10日後、再び母親が来院しました。
「治っているみたいです。さわってみると頭の位置が戻っています」
えっ、本当に治るの? うそだろー? 私は半信半疑です。ツボの治療の効果はいろいろとわかっていても、簡単に逆子が治るとは思わなかったのです。ところがその後、産婦人科で診てもらって逆子が治っていると言われたそうです。エライのは東洋医学の力ですが、ついつい自分が偉くなったような気がしました。
至陰のツボは「足の小指の外側、爪甲の角を去ることを韮葉の如くなるに在り」とあり、難産に著効あり、胎児の位置不良を治すと記されています。東洋医学研究所の若い先生が産婦人科で難産に遭い、主治医に許可をもらってお灸をすえるとすぐに赤ちゃんが出てきたという感動的な話を聞いたこともあります。
東洋医学を学んでいると、内科的疾患からアトピー性皮膚炎、腰痛症、婦人科疾患まで治療するようになりましたが、まさか産科まで手がけるとは思ってもみませんでした。これからも研鑽を積み、守備範囲を広げてゆきたいと思います。
(1999年2月)
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