「ピアスをして下さい」
 62歳の女性が少し恥ずかしそうにして入ってきました。
 
「え?」
 私も、周りの職員も少なからず驚きの表情をし、やや間を置いて楽しい雰囲気になりました。
 「先生に命を助けてもらいました。ピアスをしたらもっと若返れるでしょう」
 と、嬉しそうに話してくれます。
 このご婦人は、1ヶ月前にめまいがすると、受診してきました。話をよく聞くと、そのさらに1ヶ月以上前からめまい感があって、いろいろと治療を試みたけれど、治らなかったそうです。右耳の耳閉感と水平に動く眼球の動き、今までも何回か同じようなめまい感があったことからメニエル病はまず間違いのないところです。めまい感を止める西洋薬とメニエル病によく使う漢方薬(苓桂朮甘湯)を飲んでもらい、めまいに効くつぼの治療を施しました。治療をはじめてから5日目でめまい感は取れ、眼球の異常な動きも消えました。めまいはそのために命を落とすというような病気ではありませんが、歩くと天地がゆらぎ、自分の歩行が意のままにならない不安感は本人しかわからないでしょう。こんな不安感から解放され、万物が光り輝く春を迎えると思わず楽しくなり、ピアスを付けてみたくなったのでしょう。私も思わずうれしくなりました。
 季節の変わり目になるとめまいの患者さんが増えてきます。この時期にはメニエル病が特に目立ちます。この病気はストレスが原因で内耳に異常が生じるといわれています。一度めまいが起きると年に数回繰り返し、場合によっては徐々に症状が悪化し、難聴耳鳴りが進行するため、注意が必要です。
 そういえば、メニエル病で年に数回発作が起きていた人も、 苓桂朮甘湯をずっと飲んでもらうと今はめまい感を生じない例が何例もあります。苓桂朮甘湯で内耳の水ぶくれの異常を予防できるのでしょう。
 東洋医学の神秘にお灸があります。もぐさの匂いとお灸の温かさが精神的なリラックスを生じ、いろいろな病気に効果があります。めまいに効果のあるツボもいろいろありますが、私は主に背中にある「身柱」を使っています。このご婦人にも身柱のツボを紹介し、毎日お灸をしてもらうようにしました。お灸は簡単に自分でできる治療ですので、ぜひ一度試してみて下さい。――そして、若返りピアスもいかがですか?


(1999年3月)


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