「滲出性中耳炎と言われ、鼓膜切開を一度してもらったのですが、治りにくいようで耳が聞こえません」
 40歳の女性が来院しました。もともと気管支喘息があり、いろいろと治療を受けてきたそうですが、症状が重く、ある病院で数ヶ月入院して治療を受け、やっと症状が落ちついたので数日前に退院して帰ってきました。入院中から滲出性中耳炎にかかり、耳が聞こえにくくなりました。鼓膜切開をしてもらいましたが、溜まっている滲出液の粘りが強く、十分には取れず、耳閉感が3ヶ月以上続いています。
 「先生のところでは滲出性中耳炎にチューブを入れて治していると聞きましたので、チューブを入れてもらえませんか」と言われました。耳を診ると、確かに粘っこい感じの滲出液が溜まっています。鼓膜を切開し、溜まっている滲出液を吸引装置で吸い上げようとしましたが、ほとんど上がってきません。
 「これは粘っこいですね、1〜2回では取れませんよ。何か薬を飲んでいますか?」と不審に思い、飲んでいる薬を教えてもらいました。耳鼻科では去痰剤と抗アレルギー剤を処方され、3ヶ月以上飲んでいました。
 「抗アレルギー剤は滲出性中耳炎にもよく使われるのですが、分泌物を粘っこくする働きもありますので、とりあえず抗アレルギー剤を中止してみて下さい」とお願いをし、数日間様子を見ました。3日後来院されました。滲出液は粘りが取れ、ほとんど吸い上げることができました。数ヶ月にわたる耳閉感がやっと解消したのです。
 滲出性中耳炎に対する治療薬として、粘液を融かす働きのある去痰剤や抗アレルギー剤が勧められています。しかし、私は経験から判断して、滲出液が粘っこい時は主として去痰剤を、滲出液がサラサラと水っぽい時は抗アレルギー剤を主として使うことにしています。今回もその使い方を用いて治療を行い、症状を改善することができました。
 しかし、その後も喘息が悪化すると貯留液も増え、ゼリー状の黄色い液体が貯まってきます。この場合は、貯留液に白血球の一種の好酸球が多いためだと考えられています。ステロイド剤を必要とする状態です。ステロイドを用いると喘息の発作も粘っこい貯留液もスーッと引いてゆきます。
 ステロイドは長期使用により副作用が色々と出るため、悪者あつかいされることがありますが、炎症を止める作用は強く、適切に使えば大変効果があります。

(1999年4月)


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