「2ヶ月前からのどが変です。少しつまったような感じがします。」
 と、71歳の女性が来院しました。どうもかぜをひいたあとでのどがしっくりしないとのことです。のどを診ると特に変わったことはみられません。
 「特に変わったものはありませんよ。かぜをひいたあとでのどの腫れが残っているだけですよ」
 と説明しても何か不安そうです。喉頭ファイバーを取り出し、鼻からのどまで入念に観察し、モニターに映し出して説明すると、ホッとした表情になり、
 「私のひいおじいさんが喉頭ガンで亡くなったと聞いているので心配していたのですが、それはよかった」
 と、笑顔になりました。71歳の方のひいおじいさんというと、 おそらく江戸時代の方でしょう。 江戸時代に喉頭ガンとわかるわけがないでしょう。こういう悪い冗談にはお返しが必要です。
 「大丈夫ですよ。単なる喉頭炎です。あと20年はガンにはなりません。私が保証します」
 のどに違和感を覚える人は必ずガンを心配しています。言葉で説明しても納得されないことが多いので、喉頭ファイバーでのどを見て、モニターに写して説明すると安心してもらえます。百の言葉よりも1つの絵が大切です。

 「のどが痛くて治りません。2週間前から内科で薬をもらい、飲んでいるのですが、全然変わりません」
 と、少し遠くの方から43歳の女性が来院しました。薬を持参していたので見せてもらうと、抗生剤、消炎剤、鎮痛剤など八種類を飲んでいました。のどを診ると、喉頭の上部と扁桃に炎症がみられました。
 「のどは薬を飲むより直接治療をした方が早く治りますので、治療しますよ」
 と言って、患部の腫れを取る治療を行いました。また、ツボの治療も効果があるため同時に行いました。薬はのどの腫れを取る小柴胡湯加桔梗石膏の一剤だけ出しました。
 3日後に来院した時には症状はほとんど改善していました。
 のどの痛み、のどの不快感を訴える人は多くみられます。飲み薬は効きにくいこともあり、患部を直接治療した方が経験的に早く治るようです。百の薬より1つの処置が大切です。


(1999年5月)

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