「先生、私は実はしゃっくりがよく出て止まらないのですが、いい薬はありませんか。入院していた時、主治医の先生に聞くと、そんなものはないと言われました」
 70過ぎのお年寄りが、耳鳴りの治療を終えたあと、突然聞いてきました。
 「しゃっくりを止める方法は、日本に3つあります。1つは、冷たいコップ1杯の水に砂糖をなるべくたくさん入れて、一気に飲み込みます。これは久我法とも言われ、私が考案した方法で、成功率100パーセントです。失敗したことはありません。もし、これでダメだとしたら特効薬もあります。もともと頭痛薬ですが、呉茱萸湯という漢方薬が効きます。大変苦い薬なので、横隔膜もびっくりして止まるようですよ。それでもダメなら手の三里と合谷、足の三里と太衝のツボを押さえて下さい」
 と得意気に説明しました。私がしゃっくりで止まらなくなった時、冷たい水を飲んでみましたが止まりません。そこで砂糖水にして飲むと、ゴクンと飲み終わった時にはしゃっくりが止まったのです。その後しゃっくりが起こるたびに試みると、すぐに止まりました。他の人にもこの方法を紹介すると皆うまく止まりました。私はすっかり、しゃっくりを止める名人になったのです(誰もそう言ってはくれませんが)。
 しゃっくりは、食べすぎや飲みすぎ、ストレス、緊張などのほか、胃にこもった冷えや熱が原因となり、胸と腹を分けている横隔膜の痙攣によって、突然声門が開かれてしゃっくりになると言われてます。
 しゃっくりは胃の働きが失調し、胃の本来の「降ろす」働きが逆になって、気が上衝するために生じます。呉茱萸には気の上衝するのを降下させる作用があるため、しゃっくりに呉茱萸湯が効くのでしょう。
 アイスクリームを食べすぎたり、ジュースやビールを飲みすぎて胃が冷えておこるしゃっくりには、ショウガのおろし汁とはちみつにお湯を加えたもので胃を温めるとよいとも言われています。一度、試してみて下さい。
 さて、先のお年寄りが5日後にやって来ました。
「先生、治りました。しゃっくりが起きたので、水に砂糖を入れて飲むとしゃっくりが止まりました。今日は耳鳴りはもう治ったので用はなかったのですが、先生にぜひ報告しようと思って来ました」
 と、うれしそうに話してくれました。久我法は正しかったのです。

(1999年8月)


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