「胃が重く2、3日何も食べられません。2〜3年間漢方薬で治療していましたが良くなっていません。何とかなりませんか」
痩せ細った75歳の御婦人が消え入りそうな声で訴えています。ここ数日の食事の内容をメモして持って来ました。確かにこの2日間は、何も食べていません。
おなかを触ると、まるで紙袋を押さえるように背中までくっついてしまいそうです。おなかに皮下脂肪も内容物もありません。まさに虚しています。今までは1週間分1万円もする漢方薬を飲んでいたそうです。お金をかけている割には身についていません。
食欲不振でゲップも多いとのことです。下痢傾向はありません。こういう人には間違いなく漢方薬が適しています。
陰証で虚証の慢性胃炎には人参湯が適していますが、ゲップが多いことから、半夏瀉心湯の方がよいのかもしれません。とりあえず半夏瀉心湯を処方し、生姜のおろし汁を加えて服用してもらうことにしました。
1週間後、ゲップは減り、食事は増えていました。薬もおいしく飲めるそうです。さらに1週間後、食事の量は確実に増えています。このままで様子を見ることにしました。
一般に、いわゆる慢性胃炎には、漢方薬が役立つことが多いようです。悪心、嘔吐、食欲不振があり、体質中等度のものには半夏瀉心湯がよく、とくにゲップが多いと、これに生姜を加える生姜瀉心湯が合います。胃腸虚弱で消化機能が低下し、新陳代謝が衰えて、栄養の吸収が悪く、下痢や冷え性を伴うものには人参湯が適しています。
胃腸虚弱で特に貧血傾向、四肢倦怠の強い人には四君子湯が合います。その他に、下痢傾向の強い人には真武湯が、慢性の軽い上腹部痛を伴うことの多い人には安中散が良いといわれています。この安中散は、市販の胃薬の大半を占めています。
このように、胃薬にも漢方薬は、その人の体質や症状に応じていくつもの種類が用意されています。おなかの調子がいま一つすっきりしていない方は、漢方の胃薬を飲んでみるのも一つの方法と思います。
元気の源はおなかから―です。
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